マンション管理組合は、分譲と同時によちよち歩きを始めますが、一人前になるためには、より少ない費用でより手間をかけずに、より豊かな住生活環境を継続的に確保するための仕組みが必要です。
マンション管理には、「管理という事業」を営む「経営」の側面があります。仕組みとは、経営に必要な「戦略」に相当します。
戦略とは
ここでは、戦略とは、広い視野をもって長期的な視点に立ち、限られた資源を適正に配分して最大の成果を上げ、事業活動の継続性を確保するための方策のことです。
資源とは、有形のヒト・モノ・カネ、無形の時間・情報を指します。企業での「経営資源」に倣えば管理組合の「管理資源」と呼べるでしょう。
成果とは、マンションの住民の良好な生活環境です。良好な生活環境の提供とは「サービス」に外ならず、管理組合が営む事業は「サービス業(サービスマネジメント)」と言えます。ただ、マクロに見ると、サービスの提供者と享受者が同一という特殊性があります。
戦略を策定するには
戦略の基本は「現状分析」です。個々のマンションの現状はそれぞれ異なります。この現状を明示的に把握することです。
現状分析には、「SWOT(スウォット)分析」と呼ばれる手法がしばしば用いられます。
SWOT分析は、分析対象自身、即ちマンションの強み、弱み、マンションを取り巻く環境の機会、脅威を洗い出し、一覧化したものです。
強みを伸ばし、弱みを克服し、機会を利用し、脅威に対処することが、戦略の基本方針となります。。
分析を行う際のマンション自身の要因としては、規模(戸数、居住者数、床面積、敷地面積など)、組合員の年齢構成・職業・家族構成・生活様式、建物様式・構造・築後経過年数などがあります。
同じくマンションを取り巻く環境としては、近隣住民・商店、行政(とくにマンション施策)、ステークホルダー(取引企業など)、自然環境、より広い意味での社会環境や経済環境があります。
さらに、これらの環境が、10年後、20年後には何がどう変化していくか、それにどう対処するかも考えていく必要があります。そのためには、マンションの将来像、つまりビジョンが必要かも知れません。
SWOT分析は、管理組合の役員が交代するごとに毎年行うことが望まれます。新しい気付きや発想が得られるからです。
分析結果が増え過ぎて整理に困った時には、「KJ法」という手法が役に立ちます。たくさんの情報を、類似性に着目して整理、集約していくものです。
ライフサイクルマネジメント
多くのマンション管理組合には「長期修繕計画」があります。すべての組合員から徴収した多額の修繕積立金を、20年以上の長期にわたって、あらゆる大規模修繕に対し適正に配分し、建物の機能を最大限活用するための方策という意味で典型的な戦略と言えます。
欲を言えば、計画期間をマンションの終末時までとし、建物の解体費等を含めた積立金額とすることが望ましいでしょう。長期修繕計画をライフサイクルマネジメントにレベルアップするということです。
また、区分所有法上は管理組合の管理対象は建物・敷地・付属施設となっていますが、管理組合の事業が組合員間の「サービスの提供」とすると、サービスの品質向上を目的とするコミュニケーションの促進やコミュニティ形成のための計画が含まれてもよいのではないでしょうか。
たとえば、数年ごとに組合員全員が参加できるイベントを開催する、通信設備を整備しオンラインの掲示板を設置するなどです。もはや「修繕計画」ではなく「改善マネジメント」というべきかも知れません。
経年マンションで深刻な問題が発生しつつあります。建物の劣化と管理組合が提供するサービスの低下が相乗効果を生んでいるようです。
マンション管理組合には、終末期に至るまでサービスを提供し続けることのできるライフサイクルマネジメントの仕組みを構築することが望まれます。