古希を迎えるころ続けざまに病気を発症しました。胃癌、糖尿病、緑内障です。
 手術したこともあって、数年の間、体調不良に悩まされました。
 最近になってようやく回復してきました。お世話になった方々への感謝の気持ちを込めつつ、一体何があったのか振り返ってみました。

続けざまの発症

 胃癌は、2017年12月15日に発見されました。
 発見して頂いたのは長年にわたって検査を受けてきた医院で、手術が必要ということで大きな病院を紹介されました。19日に、早速、この病院で受診し、再び内視鏡検査を行った結果、やはり手術が必要と判断され、翌年、2月15日に手術を行いました。6日間入院しました。

 手術前には、胃粘膜の表層にできた早期胃癌のため、内視鏡による30分程度の手術で、粘膜ごとほぼ完全に取り去ることができるとの説明を受けていました。ところが実際に手術をしてみたら、胃がん発生個所の粘膜には、瘢痕(はんこん)と呼ばれるカチカチに硬く固まった胃潰瘍の跡が広がっており、簡単に取り去ることができませんでした。これを5,6個に小さく割った上、ようやく取り出すことができたとのことです。手術に6時間半もかかりました。
 おまけに、手術跡は「人工的胃潰瘍」となるのですが、これが重症な上、範囲が広く、強い痛みがあってなかなか治らず苦しみました。

 糖尿病は、胃癌発見の1か月前、11月13日に健康診断で発見されました。
 血糖値の指標のHbA1cが11.8%という高い値でした。健康診断を受けた病院で治療が始まり、担当医から、「飲み薬で血糖値を下げますが、どうしても下がらないときにはインスリン注射を行います」と脅されました。幸い、3年経って7.5%くらいまで下がりました。
 一方で、糖尿病の影響で血圧が高くなってきており、要注意状態です。

 緑内障については、それまでも眼圧が高い傾向にあり、要注意とされてきました。
 胃癌発見と同じころ異常に眼圧が高くなり、検査の結果、視野が欠けているのが分かりました。すぐに手術の必要があると判断され、手術のできる病院を紹介されました。
 翌年正月早々、紹介された病院を受診したところ緊急に手術すべきと判断され、1月9日に繊維柱帯切開術という手術を受けました。要するに眼圧を上げる原因となっている房水の詰まりを解消するものです。8日間入院しました。
 手術後も眼圧が下がらず、一時は再手術が必要ということになりましたが、手術の直前になって下がったため、かろうじて再手術は免れました。

 胃癌、緑内障の2回の手術で10kg以上体重が落ち、激ヤセしました。着るものだけでなく、靴までダブダブになったのには驚きました。体力低下、とくに足腰の衰えが著しく、石段を転げ落ちたこともあります。手を強くついて痛みがひどくなり、整形外科を受診しました。

 歯にも影響がありました。もともと「かみしめる」癖があり、そのため奥歯にひびが入って歯を抜いたことがありました。これを続けてきたためでしょうか、ここにきて下の奥歯が次々とだめになり、とうとう大きな入れ歯をする羽目になりました。
 余 談ですが、正岡子規にも同じ性癖があったようで、歯を失った話を書いています。※1

発症の原因は?

 体調不良で陰鬱な毎日を送っていた時、ふと続けざまの発症の原因に気が付きました。それは、家内の急死による猛烈なストレスで、免疫力が著しく低下したためではないかということです。
 家内は、癌の手術の後、化学療法を続けていて、その時は検査のために入院していました。ところが、退院の予定日に容態が急変し、その日のうちに亡くなりました。2017年10月初めのことでした。
 亡くなったそのこと自身がストレスですが、葬式や遺品の整理などに追いまくられ、てんてこ舞いをしたのがさらに大きなストレスでした。
 自分の体ながら、なんと素直に反応するものかと感心してしまいました。

生活の激変

 家内の死と引き続く病気の発症は、毎日の生活を激変させ、私にとって過酷な試練となりました。病気の克服は、即ち、生活の激変の克服でした。
 まず、家事一切を取り仕切らなくてはなりません。私は、現役時代は猛烈サラリーマンだったこともあり、これを言い訳にしてこれまで家事を手伝ったことがなく、罰を受ける有り様となりました。半世紀前の大学生時代のアパート暮しを思い出したりしながら、試行錯誤の繰り返しでした。
 困ったのが食事です。3食ともスーパーの惣菜かレトルト食品で賄うしかありません。限られたメニューに固定されてしまう上、3食とも孤食なので食欲が減退します。糖尿病対策のための食事療法など到底不可能です。

 この時期、手帳に記入する予定の大部分は病院通いです。多い時には6つの病院に通っていました。1週間に3か所通院したこともありました。通院というのは、バス・電車を乗り継いで、散々待たされて、帰りには薬屋でまた待たされて疲れるものです。体力が落ちている身にはつらいものがありました。
 体力低下と相まって、糖尿病の薬の副作用である低血糖症も倦怠感を強く引き起こします。一度、病院の待合室で急に意識が遠のき、座っていた椅子から転げ落ちたことがあります。それ以来、ブドウ糖を肌身離さず携帯しています。

 体力が低下すると精神的にも落ち込みます。
 これまで毎日生活を共にしていた伴侶が、突然消え失せた喪失感、寂寥感に捉われました。これに慣れない家事の不十分さや病院通いのむなしさが加わり、落ち込みが倍加しました。
 さらに、家内が亡くなった1か月後に、学生時代に計り知れないお世話になった恩人である従兄が亡くなり、翌年には中学以来の親友が急死し、なんともやり切れなく呆然としました。

終活に目覚める

 心身共に活力が低下し、胃癌の再発の可能性もあり、このまま衰えていくような不安にさいなまれました。
 一体、あと何年生きられるものか、平均余命や健康余命を調べました。自分は不健康だから、これよりだいぶ短くなるだろうなと思うと、やっておかなければならないことがいくつも思い浮かび、駆り立てられるように実行しました。

 身の回りのことができなくなったら施設に入らなくてはなりません。どこにどんな施設があり、どの施設を選択し、どんな手続きが必要か、本とネットで調べました。同時に、いつでも施設に移れるように、所狭しと置いてある荷物の整理に着手しました。

 母方の実家のお墓は、母の二人の弟(私の叔父)が戦死したこともあり、母が管理していました。
 母亡きあとは私が継承していましたが、これを私の子供に引き継がせるのはいささか可哀そうなので、思い切って墓じまいをすることにしました。
 お骨は、叔父たちが海軍で戦死したこともあり、東京湾に散骨しました。

 我が家には大きな仏壇があり、たくさんのご位牌が祀られていました。
 私自身と子供たちの核家族化や住宅事情の現状を考えると物理的な圧迫があまりに大きく、ご位牌を繰り出し位牌に書き換えた後、仏壇とご位牌のお焚き上げを行い、コンパクト化を図りました。

 学生時代に免許を取って以来、ドライブが好きでポンコツを乗り回してきました。結婚後も一度も手放したことのない車を処分しました。目が悪くなって運転しづらくなったこともありますが、施設に入居する際の支障になり得るからでした。

回復の日々

 つらい日々をしのいでいるうちに、薄皮が剥がれるように体調は回復していきました。
 3年経って気が付いてみると、ベルトがきつくなる程度に体重が増え、元気に過ごせる日が多くなりました。「時間は最強のトラブルシュータ―」であることを実感しました。

 しかし、実体は不明なのですが、言いようのない疎外感、寂莫感、焦燥感にしばしば襲われます。
 一人暮らしの老人に多い「老人性うつ」なのか、私特有の、言ってみれば病気の「後遺症」なのかは分かりません。
 答えを求めて本を貪り読むうちに救いが得られました。

 ひとつは「延命十句観音経」です。自然治癒力を限りなく高めていくホリスティック医学の専門家である帯津良一先生が紹介されていました。※2
 10句42文字の短いものです。すぐ覚えられました。
  観世音 南無仏
  与仏有因 与仏有縁
  仏法僧縁 常楽我浄
  朝念観世音 暮念観世音
  念念従心起 念念不離心

 もうひとつは、臨済宗の松原泰道禅師が紹介されていた「深山の桜」の句です。※3
  あれを見よ 深山の桜咲きにけり
  真心尽くせ 人知らずとも
 深山の桜の気持ちになって延命十句観音経を3回唱えると気持ちが落ち着きます。
 日課にしています。

 「余計なことを考えず目の前のことに淡々と取り組み、1日1日を大事に過ごすこと」と自分に言い聞かせる毎日です。

文献

※1 正岡子規「墨汁一滴」岩波文庫、1927年12月15日(初出1901年)
※2 帯津良一「はつらつと老いる力」ベスト新書、2019年1月25日
※3 松原泰道「真心尽くせ 人知らずとも」、(所収)藤尾秀昭監修「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」致知出版社、令和2年11月25日

投稿者

管理人孤老爺

福岡生まれ、首都圏育ち(今も住んでいます)の団塊世代。 / 趣味は音楽鑑賞と読書、時々散歩です。 / 大学を出てから5つの会社に約40年間勤めたのち、個人事業を開業しました。各種の資格を利用してコンサルタントをやっています。 / その後、体を壊して開店休業状態となり、心機一転、ブログを始めました。拙い文章にめげず、ささやかな思いや貧しい考えを表出する機会にしたいと思っております。 / 宜しくお願い致します。

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